2021.12.18 02:55こはる日和にとける #5#5 『 はじまりのクリスマス 』わたしは九州のとある炭鉱町で育った。木造平屋のおんなじ形の長屋が連なる町。狭い町だが、そこには特有の文化があり、コミュニティがあり、住む人にとればそこが世界のすべてだった。日常はささやかで、一日はたっぷりと長く...
2021.12.15 07:35Marble Sheep 第一夜【 第一夜 In My Life 】寒い街だからギターを置く部屋にはキリムをしいているモチーフはTree Of LIfe図像学では宇宙樹ともよばれる天空を支える世界の柱ほんとうに、美しい赤はどんな植物の染料だろう
2021.12.04 02:00こはる日和にとける #4#4『音痴はうたう』かつてわたしの音痴は、ぺらぺらのベールに覆われて危うくも巧みに存在していた。それは両親でさえ気づかない。なんなら小学校の音楽会でソロパートを任せる先生がいたことも。音楽の時間はいつバレるかとひやひやした。慎重にまわりを見て、歌えるふうに背伸びして。それはまるで...
2021.11.10 08:22いつかの景色と、 珈琲と #2#2 『 小さな私と あの日の先生 』私はまだ、とても小さな 子供だったその頃の先生は、黒くて綺麗な長い髪をしていた背が高くて、いつも 子供たちに笑顔で接している 人気者だった小さな小さな園の、憧れの先生だった彼女は、三浦先生といった
2021.10.22 08:30こはる日和にとける #3#3『 迷子のおでこ 』ちいさな男の子だった。週末、混雑したスーパーの野菜売り場。「うわーん。うわーん。」と全力で泣きながら歩いている。マスクをものともしない声。ぎゅっと作られたちいさな握りこぶしが、声以上に意志をもって「たすけて」と伝えているように見えた。あらぁ。まぁ。と、大人...
2021.10.04 09:42Juke Joint Shuffle #2#2 ジョン・リー・フッカー「 ブルーズマンになりたい 」そう思ったのは、20歳の頃だった。奴隷制度下の黒人労働者達が悩みや苦しみをギターに合わせて歌い始めたのがルーツとされる音楽ジャンルがブルース。英語では[blú:z]ブルーズと発音される。とwikiみたいな事を書いてみたが、...
2021.10.01 09:00こはる日和にとける #2#2 『美しきは秋』秋にはひそかに親しみをもっている。名前に「春」をもつわたしだけれど、旧姓には「秋」をもつ。子供のころは氏名にふたつ、季節を有していることが秘めたる自慢だった。春ははじまりの季節で、変化を好まないわたしは実はすこし苦手。菜の花やレンゲ草、雪柳の香りも大...
2021.09.10 08:00こはる日和にとける #1 #1 『蝶々の手』美しい爪の指先にほんのりと赤みが差し、細く、厚みのない華奢な手にあこがれた。大人になれば自分もきっとそんな手になれると思っていたのに。悲しいかな。いつまでたってもわたしの手はずんぐりと短く、分厚く、指先までしっかりと丸いままだった。蝶々のようにひらひらと手を舞...
2021.08.27 20:21Juke Joint Shuffle #1#1 Rolling stones「とりあえず寝るよ、俺」1988年10月某日、15時キッカリにチェックインしたホテルの小さな部屋のベッドに俺は倒れ込んだ。いや、マジで眠かったんだ。地元を明け方4時出発、この旅の目的地、横浜に着いたのが13時過ぎ。ほぼ9時間ずっと車の中だぜ。今な...
2021.08.06 03:00いつかの景色と、 珈琲と #1#1 『月の見える丘に』まだ 薄暗い朝方、喉が渇いたので モゾモゾと キッチンへと向かうふと見たリビングの、窓の方向カーテンの隙間からは 月が見えた月って、この時間こんな場所にあるの?何だかいま、それを確かめたくなって少しだけ カーテンを開けてみた月は目の前、真ん中にあった大きな...
2021.07.22 02:51BONNY PINKHeaven's Kitchenを耳にしたときのことをよく覚えている。洋楽を常に耳にし、唄っていた自分にとって、彼女のサウンドは日本人の刻むリズムとはまた違っていたのだ。感覚に触れてくるものが音楽のよいところ。言葉以上に感情を揺さぶる。音楽は一瞬にして、空間を移動できる旅である。...