Juke Joint Shuffle #2

#2 ジョン・リー・フッカー



「 ブルーズマンになりたい 」



そう思ったのは、20歳の頃だった。


奴隷制度下の黒人労働者達が

悩みや苦しみをギターに合わせて

歌い始めたのがルーツとされる

音楽ジャンルがブルース。

英語では[blú:z]ブルーズと発音される。


とwikiみたいな事を書いてみたが、

そんな事はどーでも良かった。



当時、俺が夢中だった

ローリングストーンズを始め、

ビートルズやフー。キンクスやアニマルズ、

そしてマンフレッドマンやゼムといった

1960年代の英国ビートバンドの殆どが

ブルーズに影響されていたから、

というのが表向きの理由ではあったけど、


「 ブルーズマンになりたい 」


と遠い目をして言えば、

何となくシブイ感じがして女子にモテるんじゃない?


その頃、気になってたアコちゃんと

あんな事も出来て、その友達のマミちゃんにも

惚れられて、困っちゃうな〜俺、、

どうせならあんな事も、、、

確証も無いのにニヤニヤさせてくれる

身勝手極まりない夢見るブルーズな時間は

あくまでも下世話だった事は間違いない。



その頃、大学の同級生でもあるバンド仲間のヤマから

近所にブルーズのレコードがかかる

ピザの美味いバーがあるから

バイト代も入ったし、一緒に行こうよと誘われた。

断る理由はない。


横浜駅で乗り換えて神奈川県のY市に向かった。


私鉄の駅の改札で待ち合わせたのが夕暮れ時。

そこから徒歩1分の所にその店はあった。

結構な大音量で、ブルーズが漏れ聞こえる中、

白いドアを開けると雑然とした狭い店内の壁一面に

整然と並べられてたのが無数のアナログレコード。

まだCDが一般的じゃ無かった頃だ。


店の作りはもちろん、

自分で瓶ビールを取り栓抜きで開けて呑む、

料理が出来上がるとマスターが鈴を鳴らす、

オーダーした客が取りに行って金を払う、

そんなシステム全てが世間知らずの貧乏学生には

とても衝撃だった。


その店のカウンターでひとしきり

ブルーズの話をしていた。


ローリングストーンズって名前の由来は

マディウォーターズの曲名だって事や、

シーナ&ロケッツの前身のサンハウスも

ブルーズマンの名前から取ったって事や、

ロバート・ジョンソンの音源がやっと見つかったとか

今ならスマホですぐに入手出来る情報さえも

当時は貴重なモノだったんだ。

特にマイナーなジャンルである

ブルーズに関しては。



そんな時に、アレ?

と不思議に思った事があった。


店でかかってる曲なんだけど、

マディにサンハウスにスリムハーポに、と

何故かさっき俺たちが話してた曲がかかるんだ。

ただの偶然にしちゃタイミングが良すぎる。

カウンターの中ではマスターが黙って

ピザの生地をこねてる。


まさか?

と思って試しにヤマに話しかけた。


そう言えば、

この前借りたDr.Feelgoodのアルバムに

入ってたBoom Boomって曲、

カッコ良すぎて倒れそうだったけど

あのオリジナル、ジョン・リー・フッカーだよね?

レコード持ってるなら貸して欲しいんだ。


そしたらヤマが言った。


俺も欲しいんだけど持ってないんだ、

ちょっと先輩に聞いてみるよ。


その数分後。

マスターが山のようなレコードの中から

ひょいと一枚を取り出してカウンターに戻る。

そして初めて俺たちに話しかけてくれた。


これがブギの帝王ジョン・リー・フッカー。

ニヤニヤ出来るブルーズだ。


やっぱり俺たちの話に合わせて

レコードをかけてくれてたんだ。

この人に付いていけば

ブルーズマンになれるかもしれない。


そこで初めて聴いたのが

ホンモノのBoom Boom。


Boom boom boom boom

ブーン、ブーン、ブーン、ブーン

I'm gonna shoot you right down,

俺は君をぶっ飛ばして気絶させる

right offa your feet

そんで即効で抱きかかえ

Take you home with me,

君を俺ん家に連れて行く

put you in my house

そんで、そこに押し込めるんだ

Boom boom boom boom

ブーン、ブーン、ブーン、ブーン

あの夜

ジョン・リー・フッカーに気絶させられたのは、俺。

そして、

今もブルーズマンになる夢は捨ててない。


もちろんあの頃の下世話な夢もそのままだ。


文 ・ジューク 写真 ・雫


※スマートフォンの方はYou Tubeリンクよりお聴きいただけます。



text by Juke  photo by Shizuku